とある打ち合わせの席でお客様がふと漏らした「この部品、機械加工できないから放電加工しているのですけど、コストがかかりすぎて困っているんですよね」との言葉を弊社営業担当者は聞き漏らさなかった。
日頃から「お客様の困りごとは、きちんと報告すること」と叩き込まれていたので、この時も、帰社後、いつものようにこの事を報告した。
このお客様が必要としている自動車駆動系部品は、非常に高い精度と耐久性が求められるため、お客様はもちろん弊社内でさえも「砂型では無理」との考え方が蔓延しており、当たり前のように砂型で加工代を付け、後加工をしていた。
ところが、この話を聞きつけた技術部門から「微小な角形状や、歪み、全体との位置精度などの困難はあるけれど、砂型で加工レス化できる可能性はゼロではない」との意見があがった。また、製造部門でも「試してみたい製造方法があるので、チャレンジさせてくれないか」との声があがり、前代未聞のプロジェクトがはじまった。
生産上流工程の木型データ作製工程から、造型時の使用材料、セット方法、鋳造後の仕上げ、熱処理工程に至るまで、各工程の最適化を図るため試行錯誤が繰り返された。各部門がアイデアを出し工夫を凝らし、失敗を糧にして改良を繰り返し、不可能と思われていた課題が確実にクリアされていく。さまざまなブレークスルーを経て、ついにサンプルが完成した。
弊社では、さらに特殊な検査治具を新たに製作することにより、この試作部品の精度を保証できる検査体制を整えたのである。
後日、お客様にサンプル品を提供し、機械加工、組付け、性能評価をお願いした。すると、お客様から、「製品として全く問題ありません。鋳物素材として考えると若干コストアップするようですが、放電加工が不要になったのでトータルコストを大分下げることができました」との評価をいただいた。
今回の事例は、業界だけではなく社内にも蔓延していた「砂型では無理」的な考え方が、「砂型でも出来る」に変わる、貴重な事例となった。